君が代の一節「さざれ石」のでき方と言われ

4月11日に伊吹山に登った時、石灰岩の角礫が固まった岩石を見かけた。これは登山途中、何度も見かけたが、地質学でよく使う堆積岩の礫岩とは違って、その間隙を埋める砂や泥がなくて、礫同士が直接くっついている。写真参照。

画像

 
 登ることに必死だったので、詳しくは観察しなかったが、今思い出してみると、それは丸みを帯びたり、角が円磨されていたりすることはなく、ほぼ直線的な角のとがった形をしているものが多い。大きさも不統一で大きい正方形の形をしたものもあれば小さい砕石状ものもある。直感的には海底深くあった石灰岩の岩盤が、海溝で沈み込むときに断層や亀裂により、細かく崩壊し崖下に堆積したものという感じを抱いた。これは、少し前に読んだ平朝彦著「日本列島の誕生」(1990年、岩波新書)の文章から推測したものだ。

 だが、この岩石が、いわゆる君が代の一節「さざれ石」とは驚きだった。君が代を歌うとき「さざれ いしの」の部分は深く考えたことはなく、細かな石程度に思っていた。ウイッキーぺーディアによると、この君が代のもとになる歌は、905年に編纂された「古今和歌集」に収録されている歌の一つだ。作者は名の知られていない、いわゆる詠み人知らず。その出だしの部分は「君が代」ではなく、当初「我が君は」と、書かれていたそうだ。

「我が君は 千代にやちよに さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで」

 「我が君」とは、天皇ばかりでなく、「私のあなた」のように、主君や目上の人や尊敬する人など幅広く用いられていたようだ。その後、時代の変遷とともに、「君が代」に代わっていったものの、この歌はあなた(君)の代(寿命)が、いつまでも長く続きますようにという、いわゆるお祝いの歌(賀歌)として使われていたようなのだ

 そうするなら、さざれ石は、どこにでもある単なる細かな石であってもいいのだが、実際にはその「さざれ石」というものがいろいろな所で伝わって実在しており、その一つが岐阜県揖斐川町春日では国の天然記念物にも指定されているそうである。そこは、伊吹山の登山口に位置するそうだ。その写真を揖斐川町のホームページよりコピーした(下の写真)。

画像


 そのホームページの解説には次のように記されている。
 「国歌「君が代」に詠まれているさざれ石は、日本の七高山、伊吹山のふもとにあり、学名を石灰質角礫岩と言います。これは石灰石が長い年月の間に雨水で溶解され、そのとき生じた粘着力の強い乳状液(鍾乳石と同質)が次第に小石を凝固して、だんだん巨石となり、河川の浸食作用により地表に露出したものです。」

 こうしたさざれ石は、日本各地にみられる。京都の勸修寺や京都下賀茂神社、東京千鳥ヶ渕の戦没者墓苑、鶴岡八幡宮、宮崎県日向市など。これらのさざれ石の周囲にはしめ縄を飾ったり、特別な案内板が作られている。さざれ石は、石灰岩が産出するところなら、必ずあるはずだと考えられる。京都市内に見られるのは、多分伊吹山からもたらされたものだろう。そのほかの地域は地元に石灰岩が産出するか、どこか近辺から運びこまれたのだろう。

 古今和歌集が編纂された時代は平安時代の京都だから、作者が見たさざれ石というのは、やはり伊吹山のさざれ石ということになるのだろう。揖斐川町のさざれ石がどういういわれがあるのか不明だが、伊吹山へ行けば、あちこちにさざれ石が点在している。

 学術的には、石灰質角礫岩と呼ばれるらしい。角礫岩と言えば、火山角礫岩を思い出す。数年前、御岳山の噴火で多くの人が亡くなったが、その時人々を襲ったのが、火山灰や火山岩片だ。これらが固まったものが火山角礫岩。

 伊吹山のさざれ石は石灰質角礫岩。石灰質とは成分が炭酸カルシウム(CaCO3)のことだろう。その成因は海水中に含まれている石灰分がサンゴ礁を形成したことによる。サンゴ礁は暖かい海山の周りにできる。海山はプレートにのり、太平洋を横断して1億~1億5千万年かけて海溝に運び込み、沈み込む。その際、海山の周りのサンゴ礁はすでに石灰岩になっており、沈み込んだ石灰岩の一部は断層や亀裂などにより、小さく時には大きくなったり、角礫状に崩れ落ち、堆積したと考えれる。その小石のようにばらばらに堆積したものが、その後の時間の経過とともに、石灰質が溶解し角礫をつなげ、一つになったのだろう。それらが大陸側に付加して、他の石灰岩の岩帯とともに伊吹山を形成したと考えられる。

 平安時代、この歌の作者はさざれ石を見て、何か不思議な感覚に襲われたのかもしれない。小さな石ころの集合が一つになり岩になって苔むしていく。この岩石の不思議さを理解したのかもしれない。我が君もこの石のように長生きしてほしいと願ったのかもしれない。

 実際はさざれ石は、海溝に沈み込む前、一つ一つばらばらであり、それは断層や亀裂により崩壊したものだ。さらにそれは元々は一億数千万年かけて形成された石灰岩であり、太平洋という海洋底を年ミリ単位で移動してきたサンゴ礁がその始まりなのだ。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック